旭化成の吉野彰・名誉フェローがノーベル化学賞を受賞することが2019年10月9日に発表されました。
この度の吉野彰 旭化成・名誉フェローの受賞により、日本人のノーベル賞受賞者は、全部で27人(日本人で受賞当時、外国籍の2人の受賞者を含む)になります。
湯川英樹博士から始まった歴代日本人ノーベル賞受賞者を部門別年代順に、それぞれの受賞理由とともにまとめてみました。
また、受賞者には賞金が贈られますが、この賞金には所得税なんか、かかるはずがないと思っていましたが、意外や意外、税金がかかるノーベル賞があるというのです。
これはどういうことなのか、調べてみました。
目次
歴代日本人ノーベル賞受賞者、部門別年代順、受賞理由まとめ
歴代日本人ノーベル賞受賞者を部門別年代順に、それぞれの受賞理由とともにまとめてみました。
物理学賞(11人)
年 | 受賞者 | 受賞理由 |
1949年 | 湯川英樹 | 原子核物理学分野で、陽子と中性子を結びつける中間子の存在を理論的に予想 |
1965年 | 朝永振一郎 | 量子電気力学分野での基礎的研究 |
1973年 | 江崎玲於奈 | 半導体におけるトンネル効果の実験的発見。 トンネル効果とは、打ちつけた電子がある確立で壁の向こう側に通り抜けてしまう電子や素粒子の極微小の世界でのみ起きる確立論的現象のことをいいます。 |
2002年 | 小柴昌俊 | 天体物理学における宇宙ニュートリノの検出に対するパイオニア的貢献。 具体的には50,000トンの超純水を蓄えた直径40m、深さ41.4mのタンクとその内部に設置した11,200本の光電子増倍管からなる「スーパーカミオカンデ」と呼ばれる装置による陽子崩壊やニュートリノによる天体観測の業績 |
2008年 | 南部陽一郎 | 素粒子物理学における自発的対称性の破れの発見 とがった方を下にして鉛筆を立てると、どちらか一方向に倒れるが、真空(素粒子の世界)でも起こっているこれと同じ現象のことを「自発的対象性の破れ」といいます。 |
2008年 | 小林誠 益川敏英 |
CP対称性の破れの説明理論(小林・益川理論)とその起源の発見による素粒子物理学への貢献 |
2014年 | 中村修二 赤崎勇 天野浩 |
高輝度で省電力の白色光源を可能にした青色発光ダイオードの発明 この発明により、すでに発明されていた赤色・緑色の発光ダイオードとの混合により、より長命で効率的な白色光源をつくりだすことに成功しました。 これにより日常での基本的な光源が白熱電球から白色LEDに置き代わることになります。 |
2015年 | 梶田隆章 | ニュートリノが質量を持つことを示すニュートリノ振動の発見 |
化学賞(8人)
年 | 受賞者 | 受賞理由 |
1981年 | 福井謙一 | 化学反応過程の理論的研究(フロンティア軌道理論) 原子核の周囲を回る電子のうち一番外側(フロンティア)の軌道にある電子しか化学反応に関与しないというフロンティア軌道理論を発表し、それまでは経験的に知られていた有機化学反応について、なぜそれがおこるのか、なぜこの反応は起こらないのかということを体系的な理論として確立させた。 |
2000年 | 白川英樹 | 導電性高分子の発見と発展 いわゆる「電気を通すプラスティック」の発見によりタッチパネルや携帯電話、ノートパソコンに使用されているリチウムイオン電池の電極等いろいろな最新機器に必須の素材として広く応用されている。 |
2001年 | 野依良治 | キラル触媒による不斉反応の研究 化学合成により生成される対称的な有機化合物(キラル分子,光学異性体)のうち有用な化学物質を高い効率で合成する技術に道を開いたこと |
2002年 | 田中耕一 | 生体高分子の同定および構造解析のための手法の開発。 たんぱく質などの質量分析を行う場合、高分子量のタンパク質をイオン化することは困難だが、グリセロールとコバルトの混合物を熱エネルギー緩衝材として使用する「ソフトレーザー脱着法」を開発し、レーザーによりタンパク質を気化、検出することに世界で初めて成功しました。 |
2008年 | 下村脩(しもむらおさむ) | 「オワンクラゲがなぜ光るのか」ということに興味を持ち、その謎を解明すべく研究に着手。 その結果、オワンクラゲから分離・培養されたタンパク質の一種である緑色蛍光タンパク質を発見し、それがその後の生命科学分野の飛躍発展の基礎となり生命科学へ大きく貢献しました。 |
2010年 | 根岸英一 鈴木章 |
パラジウム触媒によるクロスカップリング反応の開発 この化学の手法は化学者の可能性を大幅に広げ、その結果、高度な化学物質、たとえば自然が創造したのと同じくらい、複雑な炭素をベースとした分子が合成できるようになりました。 |
2019年 | 吉野彰 | リチウムイオン電池の開発 軽量かつ高出力で、充電して何度でも繰り返して使えるため、スマートフォンやノートパソコン、電気自動車など使用範囲が広く、現代のモバイル社会の実現に欠かせない存在となっています。また、化石燃料に頼らない太陽光発電や風力発電の弱点をカバーする温暖化対策の推進にも貢献できる点が評価されました。 |
医学生理学賞(5人)
年 | 受賞者 | 受賞理由 |
1987年 | 利根川進 | 多様な抗体を生成するB細胞の遺伝的原理の解明 「B細胞だけは自らの抗体遺伝子を自在に組み替えて、無数の異物に対応する無数の抗体を作ることができる」ことを証明したこと |
2012年 | 山中伸弥 | 様々な細胞に成長できる能力を持つiPS細胞の作製 これにより再生医療が展開される基礎が出来上がりました。 |
2015年 | 大村智 | 線虫の寄生によって引き起こされる感染症に対する新たな治療法に関する発見 |
2016年 | 大隅良典 | オートファジーの仕組みの解明 オートファジーは、酵母や植物、動物など、すべての真核生物に備わっている細胞内の浄化・リサイクルシステム。酵母を使った実験により、オートファジーに欠かせない遺伝子を14種類発見し、それらの遺伝子からつくられるAtgと呼ばれるタンパク質群の機能を調べる研究を進め、オートファジーのメカニズムを解明しました。 |
2018年 | 本庶佑 | 免疫チェックポイント阻害因子の発見とその応用により、新たながん治療に道を開いたこと |
文学賞(2人)
年 | 受賞者 | 受賞理由 |
1968年 | 川端康成 | 『伊豆の踊子』『雪国』など日本人の心情の本質を描いた、非常に繊細な表現による叙述の卓越さを評価 |
1994年 | 大江健三郎 | 『個人的な体験』『万延元年のフットボール』など、詩的な言語を用いて現実と神話の混交する世界を創造し、窮地にある現代人の姿を、見る者を当惑させるような絵図に描いた功績を評価 |
平和賞(1人)
年 | 受賞者 | 受賞理由 |
1974年 | 佐藤栄作 | 「核兵器をもたず、つくらず、もちこませず」という非核三原則の提唱の評価 |
ノーベル賞の副賞である賞金には税金がかかるの?
実は、湯川秀樹博士がノーベル賞を受賞した時、そんなことを想定していない当時の所得税法は、ノーベル賞の賞金を非課税対象にしていませんでした。
そのことに世論の反発が起こり、1949年11月24日に「学術、技芸、慈善その他文化的又は社会的貢献を表彰するものとして交付する報奨金品」は非課税とする内容の所得税法の改正が行われたのです。
そうした背景のもと、現在は非課税対象として「ノーベル基金からノーベル賞として交付される金品」(所得税法第9条13号ホ)が規定されており、日本人がノーベル賞受賞により受け取る賞金はこの規定により非課税となります。
しかし、ノーベル経済学賞の賞金はこれから除外され、税金がかかるのです。
それはなぜでしょう?
実はノーベル経済学賞は、もともとノーベル賞の創設者ノーベルの遺言にはなく、その賞金はノーベル基金からではなく、スウェーデン国立銀行から交付されているのです(ノーベル賞の本家本元のノーベル財団は、この経済学賞はノーベル賞でないとまでいいます)。
そのため、所得税法上もノーベル基金からの賞金に該当せず、非課税対象とはなりません。
また、救済的な役割を担う財務大臣の指定により非課税となる所得税法第9条第13号ヘの規定に基づく財務大臣の指定も受けていないため、現時点では、課税対象となってしまうのです。
今までノーベル経済学賞を受賞した日本人がいなかったので、問題にされていませんが、今後、湯川英樹博士と同じ問題が起きないとも限りません。
もっとも、日本人がノーベル経済学賞を受賞したときは、すかさず所得税法第9条第13号ヘの財務大臣の指定を行うんでしょうね。
まとめ
それでは今回のまとめです。
2018年10月1日、京都大学の本庶佑・特別教授にノーベル医学生理学賞が贈呈されることが発表されました。
本庶佑・特別教授の功績は、発見した免疫チェックポイント阻害因子をがん治療へ応用することにより、新しいがん治療の道を開いたことです。
従来のがん治療といえば、①手術によ患部の切除、②がん患部への放射線照射、そして、③抗がん剤の投与の3つの方法がありましたが、これに免疫療法が加わり、患者の救済の機会が拡大したことになります。
具体的には、ニボルマブ(商品名:オプジーボ)という免疫薬の開発に結実しています。
ただ、この免疫薬は、効く人とあまり効かない人がいること、そして値段も結構高額ということがあり、これらの改善が今後の課題になると思います。
【追記】
2019年10月9日、旭化成の名誉フェローである吉野彰さんにノーベル化学賞が贈呈されることが発表されました。
吉野彰さんの功績は、リチウムイオン電池の開発で、この電池は軽量かつ高出力で、充電して何度でも使えるため、スマートフォンやノートパソコン、電気自動車などに広く使われています。
特に電気自動車は、温室効果ガスの二酸化炭素を排出しない乗り物として地球温暖化対策の後押しになると期待されています。
もともとリチウムイオン電池の開発はアメリカで始まり、電極に金属リチウムを用いて2ボルトの電圧を発生させることに成功しましたが、発熱の危険があるため実用化には至りませんでした。
その後、プラスの電極にリチウム化合物「コバルト酸リチウム」を用いた電池が4ボルトの電圧を発生させましたが寿命はわずか数日でした。
吉野さんは、この研究発表を受け、ノーベル化学賞を受賞した白川英樹教授が発見したいわゆる電気を通すプラスティック「ポリアセチレン」をマイナスの電極に使うことを着想したのです。
そしてプラス極には「コバルト酸リチウム」を用い、更には旭化成が開発した特殊な炭素繊維をマイナス極に用いることで小型化して充電に成功し、リチウムイオン電池の原型を完成させたのです。
旭化成の吉野さんと並行して開発に取り組んだソニーが世界で初めてリチウムイオン電池の量産化に成功し、今や世界で様々な分野に使用されています。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。