9月28日衆議院が解散され、10月22日に総選挙が行われます。
今回の総選挙は、臨時国会の冒頭解散によるもので、小池都知事が立ち上げた「希望の党」の動向や民進党の去就など報道機関がヒートアップする話題満載の選挙になりそうです。
選挙といえば、最近、不在者投票とは別に「期日前投票」という陸上競技のフライングのような呼ばれ方をする制度が開始されました。
有権者からは利用しやすいと評判は上々で利用が増えている状況です。
期日前投票にはどんなメリットがあるのか、そして不在者投票との違いはどうなのか?
両制度を比較するとその背後に「目からウロコ」のようなちょっとした閃きがあることが分かりました。その閃きとは?・・
期日前投票と不在者投票の比較(その1ー実際編)
選挙の際、仕事や旅行などで投票日当日に所定の投票所で投票できないとき、従来は「不在者投票」をしていました。
そのやり方は、候補者を記載した投票用紙を内封筒に入れ、更にそれを外封筒に入れて二重封筒にして封じ、外封筒に自分の氏名を書いて「投票箱に投票」(実は不在者投票管理者に提出)します。
理論編で詳しく解説しますが、この時点では投票は未確定で、投票日に所定の投票所の投票箱に投入されて初めて投票が確定することになります。
これが不在者投票の内容であり効果になります。
実際にやってみるとわかりますが、大変手間がかかって面倒臭く、しかも外封筒に自分の名前を書くというのですから、誰に投票したのか外からわかってしまうような気がして、名前を書くのに何となく心理的な抵抗感があります。
二重封筒なので投票の秘密の上から問題はないのでしょうが、なぜこんな面倒で心理的に抵抗があることをさせるのか、常々疑問に思っていました。
そうした中、投票日前でも普通に投票ができる、つまり投票用紙を直接投票箱に入れることができる「期日前投票」の制度が始まりました。
二重封筒の煩わしさや誰に投票したのかが分かってしまうかの様な心理的な抵抗感もない、投票人にとって大変気軽に投票できる内容になっています。
実は、期日前投票は投票事務に従事する者にとっても大変メリットのある制度なのです。
今まで投票所で行っていた投票事務のうち、不在者投票に関連する事務として、不在者投票の受理不受理の決定や外封筒と内封筒の開封などの作業がありました。
「外封筒と内封筒の開封などの作業」とは、外封筒を開封して取り出した内封筒をシャッフルして誰の内封筒か分からなくしてから開封して取り出した投票用紙を投票箱に入れる作業です。
これがなくなり、事務負担が大幅に軽減されたのです。
実際、封筒に入った不在者投票が選挙管理委員会から投票所に持ち込まれるのは、いつも決まって投票時間終了間際の集計や投票録作成の準備などで忙しい時なのです。
そのため二重封筒の開封を一度で済ませる裏技を使ったり、内封筒から取り出した沢山の投票用紙を投票箱に入れる際には投票に来た人に怪しまれないように、誰もいない時を見計らってこっそり行うなど相当に気を使っていました。
期日前投票は、こうした作業を一切なくしてくれたのです。
期日前投票と不在者投票の比較(その2ー理論編)
期日前投票により、不在者投票の煩わしさや事務作業の大きな負担が解消されたわけです。
でも不在者投票では、なぜ外封筒に投票人の名前を記載させて、誰が投票したのか外から分かるようにしているのか、依然として疑問が残ります。
実は選挙には、投票日当日に投票所で投票することを原則とする「投票日当日投票所投票主義」という、いかにも杓子定規な考え方があり、不在者投票もこの原則に則って制度設計がされているのです。
この考え方によれば、投票日前に二重封筒に入った投票用紙を「投票箱に投票」(実は不在者投票管理者に提出)してもまだ投票は未確定で、投票日に開封された投票用紙が所定の投票所の投票箱に入れられたその時に初めて投票が確定することになるのです。
従って、不在者投票をした者が投票日前に死亡したり失権などすると、その不在者投票は確定前なので無効になってしまいます。
そのための手続きとして投票日に投票所で不在者投票の受理不受理の決定を行うのです。
そうした場合に備えて、誰が行った不在者投票かが分かるように外封筒に名前を書くのです(死亡者などの不在者投票は不受理の決定を行い取り除かれます)。
現実には、選挙管理委員会(不在者投票管理者)が事前に調査して死亡者などの不在者投票は取り除いて、それぞれの投票所に持ち込んできます。
しかし、投票の秘密を維持するために二重封筒にしなければならず、このことが投票人にも投票事務従事者にも煩わしい作業を強いる大きな原因になっていました。
これに対し期日前投票は「投票日当日投票所投票主義」の例外として位置づけます。
投票日前でも所定の期日前投票所の投票箱に投票すれば、その時点で投票が確定し、その後投票日までにその投票人が死亡したり失権などしてもその投票は無効にならないという考え方に基づいているのです。
ただ、そうすると死亡者などの投票がカウントされる可能性が出てきますが、それはレアケースなので、それよりも投票人の利便性を優先させて例外の制度として期日前投票を採用したわけです。
「投票日当日投票所投票主義」という窮屈な考え方を維持するために、不在者投票という随分面倒な制度を作らざるを得ませんでした。
これに対し期日前投票はこの窮屈な考え方にとらわれず、例外とするだけでシンプルで気軽に利用しやすい制度に改善されたのです。
期日前投票は、視点や考え方をちょっと変えるだけで大きな制度の改善になる、正に目からウロコの典型的なお話しだとは思いませんか?
期日前投票は、今後利用者が増えることは間違いないと思います。
依然として残る不在者投票が対象となるケースとは?
期日前投票が素晴らしい制度とはいっても、すべてをカバーできるわけではありません。
次のようなケースは、依然として不在者投票の対象となります。
①出張などにより名簿登録地以外の市区町村の選挙管理委員会で不在者投票を行う場合
住民票を地元に残して大学がある遠隔地で暮らす学生が投票する場合も遠隔地の市区町村選挙管理委員会での不在者投票になります。
これに関して旭川市の選挙管理委員会でその運用が問題になりました。
旭川市選管は、こうした学生に対して居住の実態がないことを理由に投票用紙の交付を拒否していました。
確かに公職選挙法は居住の実態のない住民は投票できないと定めています。
しかし、実態調査の上、居住の実態がないと確認して選挙人名簿から抹消する手続きが必要で、それを行わなければ投票拒否はできないのです。
旭川市の選管は、この手続をとっておらず、選挙人名簿に登録されているにもかかわらず投票拒否をしていました。
②都道府県の選挙管理委員会が不在者投票のために指定した病院・老人ホーム等で入所者が不在者投票を行う場合
③郵便等による不在者投票(身体障害者手帳か戦傷病者手帳を持っている選挙人で所定の要件に該当する者に限定)
そのほか、例えば投票日に18歳を迎えるが、その前は未だ17歳で選挙権を有しない者などについては、期日前投票をすることができないので、例外的に名簿登録地の市区町村選挙管理委員会で不在者投票をすることになります。
まとめ 不在者投票と期日前投票の違い
それでは今回のまとめです。
選挙の際、投票日当日に投票所で投票できない場合に備えて不在者投票の制度があります。
しかし、煩わしい二重封筒と外封筒に自分の名前を書くため誰に投票したか他人に分かってしまうような不安があって利用しにくい制度でした。
これに対し期日前投票は、不在者投票制度の欠点を克服した利用しやすい制度になっています。
これは、ちょっとした見方・考え方の違いや発想の転換で制度改善がこんなにもできてしまう典型的な事例だと思います。
期日前投票は、今後も利用が増えることでしょう。
それが投票率のアップにつながるといいのですが。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。