9月6日未明に発生した最大震度7の胆振東部地震により道内のほぼ全地域が停電する「ブラックアウト」が発生しました。日本では始めての経験でした。
なぜこんなことが起こったのか。
この度のブラックアウトは、地震により道内最大の電力を供給する北電の苫東厚真発電所のボイラーやタービンが損傷して緊急停止したため、電力の供給量が大幅に下がり、電力の需給バランスが崩れたことによって起きたものだといいます。
それに交流電気の周波数が関係しているといいます。
電力の需給バランスが崩れるとなぜブラックアウトが起きるのか?
交流電気の周波数がブラックアウトに関係しているとはどういうことなのか?
ブラックアウトの原因を解明していきます。
目次
発電所が発電する電気は交流
電気には交流と直流の2種類があります。
(1) 交流とは?
交流は、電流の向きや大きさが規則正しく波のように変化する電気で、発電所が発電する電気も交流の電気です。
(2) 直流とは?
一方、電流の向きが一方向なのが直流で、乾電池やバッテリーの電流は、使っていくうちに段々電気量(電圧)が減っていきますが、電流の向きが常に同じ方向なので直流の電気です。
(3) 東日本と西日本とでは交流の周波数の単位が違う!?
交流は流れる向きが波のように変化するので、その1秒間当たりの変化する波の数を周波数と呼んでおり、単位はHz(ヘルツ)で表示します。
明治時代に輸入された発電機の規格が現在まで受け継がれ、東日本ではドイツ由来の周波数50ヘルツの交流が、西日本ではアメリカ由来の周波数60ヘルツの交流が使われています。
この違いによる家電への影響は、通常はありませんが、モーターなどは周波数の違いで回転数が違ってきます。例えば、レコ-ドプレーヤーのターンテーブルの回転数が違うと再生される音の音程が違ってきます。
でも現在のプレイヤーは優秀で両方の周波数に対応できるようになっています。
(4) 交流の周波数がブラックアウトの原因に大きくかかわっている!?
交流の性質として、発電所で発電される電力量が電力需要を上回ると周波数は上昇し、逆に電力需要が電力量を上回ると周波数は低下します。
この電力の需給バランスと周波数の上げ下げの関係が、ブラックアウトの原因に大きくかかわっているのです。
ブラックアウトは、発電機の損傷を防止する手段だった!
(1) 交流の周波数変動で発生した「共振」による発電機損壊の恐れ
電力の需給バランスの変動により交流の周波数も変動しますが、周波数が一定でないと、回転系の機器に様々な影響がでます。例えば工場では製品の品質にムラがでます。
発電の専門家は、
「周波数の変動により発電所も影響を受け、発電機の振動が「共振」により増幅されると機器が損傷する恐れが生じ、このため、発電機の安全稼動には周波数の安定が欠かせない」といいます。
「共振」とは、物体には重量や材質などにより最も揺れやすい「固有の振動数」があり、この「固有の振動数」が揺れの周期と重なると、振動が増幅される現象をいいます。
共振が起きた物体は、通常の揺れを遥かに超えて大きく振動し、最悪の場合、その物体が壊れてしまいます。
(2) 火力発電所の電力需給バランス
火力発電所では、蒸気でタービン(羽根つき回転軸)を回して発電しますが、大きさの違う複数の羽根や長い回転軸で構成されるタービンは周波数の乱れによって共振が起きやすいといいます。
電力の需給バランスが崩れて需要が供給を上回ると周波数が低下してタービンの回転数が落ちます。するとタービンが共振により増幅された振動のため損壊してしまう恐れが出てきます。
発電の専門家は、
「火力発電所を安全に運転するためには、周波数の変動幅を+0.5ヘルツ、-1.5ヘルツ以内に収める必要がある」と話します。
(3) 電力の需給調整のための強制停電や発電機の自動停止
発電所を持続的に安定して稼働していくためには電力需給を調整し、周波数を一定に保つなどして発電機の損傷を防いでいます。
そのため何らかの理由で需給バランスが大きく崩れた場合は、強制停電や発電機の自動停止などでバランスを回復させているのです。
(4) 電力需給バランスの崩れからブラックアウトに至る因果の流れ
今まで述べてきた、電力需給バランスの崩れからブラックアウトに至る因果の流れを簡単に説明すると次のようになります。
電力需給バランスの崩れ → 電流の周波数
が変動 → 発電タービンの回転数が変動 → 共振による振動の増幅 → 振動の増幅 による発電機損傷の恐れ → 強制停電や発 電所の自動停止 → ブラックアウトの発生 |
北電の発電設備の配置か所数とそれぞれの認可発電出力
今回のブラックアウトは、苫東厚真火力発電所の発電機の損壊により生じたものです。
そこで、北電の発電所別の配置か所数とそれぞれの認可出力、特に火力発電所のそれについて調べてみました(2018/3/31現在)。
発電所 | か所数 | 認可出力 |
(水力発電所 | 56か所 | 1,648,355kW) |
火力発電所 | 11か所 | 4,065,210kW |
(原子力発電所 | 1か所 | 2,070,000kW) |
地熱発電所 | 1か所 | 25,000kW |
太陽光発電所 | 1か所 | 1,000kW |
合 計 | 70か所 | 7,809,565kW |
地震発生当時、稼働していなかった水力発電所と原子力発電所を除くと認可出力は全体で4,091,210kWとなります。
次に火力発電所の内訳を見てみます。
火力発電所 | 認可出力 |
砂川火力発電所 | 250,000kW |
奈井江火力発電所 | 350,000kW |
苫小牧火力発電所 | 250,000kW |
伊達火力発電所 | 700,000kW |
苫東厚真火力発電所 | 1,650.000kW |
知内火力発電所 | 700,000kW |
合 計 | 4,065,210kW |
地震発生当時、原発はもちろんのこと水力発電所も稼働していませんでした。そうすると全体の発電量に占める火力発電所の発電量は99.36%で、ほぼ火力発電所で賄われていたことになります。
しかも、苫東厚真発電所の発電量が火力発電所の中で占める割合は40.59%、全体の発電量の中に占める割合でも40.33%で、全体の4割を担っている状態です。この4割分の発電が停止したらどうなるか?
電力の需給バランスが大きく崩れ、発電機の損傷を防止するため、他の全発電所が緊急停止したり、自動停止となるのは避けられず、道内全世帯の停電・ブラックアウトにならざるを得なかったというのが真相です。
まとめ
それでは今回のまとめです。
電力の需給バランスの崩れがブラックアウトを引き起こす因果の流れを詳細に見てきました。
一度電力の需給バランスが大きく崩れると、発電機の損傷を防止するために強制停電や発電所が自動停止するのは避けられない状況にあることがわかります。
そのため火力発電所の安全運転には、交流の周波数の変動幅を「+0.5ヘルツ、-1.5ヘルツ以内」に収めることが必要というわけです。
そのためには地震などの災害が起きた時、いかに電力の需給バランスに大きな崩れを出さないようにするかだと思います。
こうした観点から現在の北電の発電所の状況を見た時、発電量が全体の40%を占める苫東厚真火力発電所にあまりにも発電能能力が偏っているように思います。
今回の胆振東部地震がそのことを証明したのではないかと思います。
泊原発の再稼働が見通せない現在、早期にリスク分散を図る必要があると感じました。
最後まで読みいただき、ありがとうございました。
胆振東部地震が発生して停電・断水に襲われたとき、管理人が家で対処した経過を記事にしていますので、そちらの記事もお読みいただけると嬉しいです。
⇒ 北海道胆振東部地震直後に襲われた停電と断水に対処した方法とは?