7月11日の参議院本会議で自民党提出の公職選挙法改正案が可決され、衆議院に送付されました。
その内容は、参議院議員選挙における「一票の格差」を是正するために議員定数を6議席増やす?というもの。
昨今の政治情勢や経済社会状況、特に来年消費税の税率のアップが予定されているのに、議員定数を増やすというのです。
格差を是正するために定数増の方法しか道はなかったのでしょうか。
参議院議員選挙における「一票の格差」とその是正方法とともに、今回の参議院議員の定数増の問題について報告します。
参議院議員選挙における「一票の格差」とは?
まず、「一票の格差」とは、一般的にはある選挙区の有権者数をその選挙区に配分された議員定数で割った数値、すなわち議員一人当たりの有権者数について他の選挙区の議員一人当たりの有権者数と比較したときの有権者数の違い(人口格差)をいいます。
具体的には、例えば7月11日に総務省が発表した住民基本台帳に基づく人口(子供が含まれるが)を使った試算(読売新聞社)によると、議員1人当たりの人口が最少の福井選挙区(388,665人)と最多の埼玉選挙区(1,199,805人)では、3.087倍もの格差があります。
つまり選挙における投票の価値に3倍もの違いが生じているのです。
これは、憲法第14条で定める「法の下の平等」に反することになります。
「一票の格差」の是正方法について
そこで、その格差の是正方法ですが、基本的な考え方は簡単で、それぞれの選挙区の議員1人当たりの有権者数を調整して、できるだけ同じにすればいいわけです。
一つは、議員定数の再配分。つまり、議員1人当たりの有権者数の少ない選挙区の議員定数を減らす一方、有権者の多い選挙区の議員定数を増やすことが考えられます。
現在の参議院議員の選挙は、選挙区(定数146人)のほか比例区(96人)があります。
そこで、選挙区でけでなく、比例区に割り振られている議員定数も再配分の対象にすれば、調整の幅が一段と広がり、いくらでも調整は可能になります。
それから、あまり現実的ではないのですが、考え方としてもう一つの方法は、選挙区の区割りの調整(変更)です。
議員定数の再配分が、議員1人当たりの有権者数を算出する計算式(下の式)のいわば分母の調整なのに対し、区割りの調整は、分子すなわちそれぞれの選挙区の有権者数の調整ということになります。
しかし、現在の選挙区は、都道府県の区域がそのまま選挙区となっており、区割りの調整といっても、選挙区と選挙区を合体させる合区という方法が考えられる程度です。
現実に平成27年の法改正で「鳥取・島根」や「徳島・高知」の合区ができました。
市町村単位で区割りの調整ができれば、細かい調整ができますが、都道府県を跨った選挙区が出現し、これはさすがに現実的でないと思います。
現状では、選挙区の合区と比例区を含めた議員定数の再配分を組み合わせて行うのが現実的と思います。
今回の公職選挙法の改正法案の問題
7月11日、自民党が提出した公職選挙法改正案が参議院本会議で可決され、衆議院に送られました。
今回の改正法案は、①埼玉選挙区の定数を2増やし、②比例区の定数を4増やすなどとなっています。
その結果、選挙区と比例区の定数を合わせて6増やすことになり、成立すれば来年の夏の参議院選挙から実施されます。
しかし、今回の公職選挙法の改正法案は、次の点において現下の社会経済的状況に逆行するものであり、大いに疑問です。
- ①来年秋に消費税の税率が10%に引き上げられることが予定されていること
- ②日本は9年連続で人口が減少している中、地方議会は定数削減に取り組んでいること
- ③定数増分の歳費を含む経費が増加すること(試算では、6人分で4億2000万円ほどの在任経費がかかるそうです。)
- ④高齢化による医療費や介護サービス費などの社会保障費が増加していること
まとめ 1票の格差是正のための方策
それでは今回のまとめです。
参議院議員選挙における「1票の格差」是正のために自民党から提出された公職選挙法改正案が参議院本会議で可決されました。
しかし、この法案は現下の社会経済状況に逆行し、良識の府である参議院が出した結論とは到底いえないものです。
「1票の格差」是正のための方策は、現行の総定数を増やさなくても、既に書いてきたように選挙区の合区と比例区を含めた議員定数の再配分の組合せで調整は十分可能です。
参議院で自身の利害がかかわる選挙制度改革ができないのなら、衆議院でこの法案を否決してもらうしか方法はないと思います。
自民党が多数を占める衆議院にそれを期待するのは無理なのでしょうか?
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
この記事の内容は、いかがでしたでしょうか?
(7月19日追記)
参議院議員の定数を6増やす公職選挙法改正法案は、院外の多くの反対意見をよそに、7月18日衆議院本会議で与党の賛成多数で可決、成立してしまいました。